夜勤勤務は、身体に想像以上の負担をかけています。
特に体重増加に悩む方の声は多く、「生活を変えていないのに、なぜか太ってしまった」「夜勤を始めてから明らかに体型が変わった」というのは決して珍しい悩みではありません。
この体重増加の背景には、単純なカロリー過剰だけではない、夜勤特有の複雑な生理学的メカニズムが絡み合っています。
一見すると自己管理の問題のように見えても、実は体内時計の混乱が引き起こす「疲労と開放感による過食」「日中の睡眠が招く活動量の低下」「基礎代謝の低下」という三重苦が根本原因なのです。
本記事では、これらのメカニズムを丁寧に解きほぐし、科学的根拠に基づいた具体的な対策を提案します。
夜勤と体重増加の負の連鎖を断ち切り、健康的な体を維持するためのヒントを見つけましょう。
1. 疲労と開放感による過食


夜勤明けのドカ食いは、単なる意志の弱さではなく、身体が発する強力なシグナルと心理的欲求が複合的に作用した結果です。
①生物学的ストレス反応としての食欲増進
夜勤明けのドカ食いは、生物学的ストレス反応と心理的解放感が相まって起きる、極めて自然な現象と言えます。
なぜなら、深夜労働による心身の疲労は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させます。
このコルチゾールは、血糖値を上げてエネルギーを確保しようとする一方で、食欲、特に高カロリー・高糖質・高脂肪の「快楽食」への欲求を強く刺激する作用があるからです。
同時に、厳しい勤務を終えたことによる心理的な解放感や達成感が、「自分へのご褒美」として過食を正当化しやすくしてしまいます。
この「疲労による生物学的欲求」と「開放感による心理的欲求」が重なり合うことで、意志の力では抗いがたいほど強烈な食欲が湧き上がってくるのです。
②体内時計の乱れが引き起こす摂食リズムのミスマッチ
夜勤明けの食欲増進には、体内時計(概日リズム)の乱れも深く関わっています。
通常、身体は夜間に休息と修復のモードに入り、消化活動や食欲は低下します。
しかし、夜勤中は活動状態を強いられるため、この自然なリズムが完全に逆転します。
特に夜勤終了後の早朝(身体的には「夜」に相当)に食事を摂ると、通常のリズムでは食欲が最も低い時間帯に大量の食物を摂取することになり、体内時計と摂食行動のミスマッチが生じます。
このミスマッチは、血糖調節を司るインスリンの感受性を低下させる可能性も指摘されており、摂取したカロリーが脂肪として蓄積されやすくなるリスクを高めます。
したがって、夜勤明けのドカ食いは、単なるカロリーオーバーの問題ではなく、ホルモンバランスの乱れと体内時計の混乱が引き起こす複合的な現象なのです。
③過食連鎖を断つための第一歩
この過食の連鎖を断つには、まずそのメカニズムを理解し、自分を責めないことが第一歩です。
そして、生物学的欲求と心理的欲求の両面から戦略を立てる必要があります。
例えば、夜勤終了前に軽いタンパク質豊富な補食を摂って空腹感を和らげたり、帰宅後の「ご褒美」を食事以外のリラックス方法(入浴、読書、短時間の睡眠など)に置き換える工夫が有効です。
「疲れたから食べる」という自動的な反応を、意識的な選択に変えていくプロセスが鍵となります。
2. 日中の睡眠が招く活動量の低下


夜勤勤務者が体重増加に直面する大きな要因の一つは、避けられない「日中の睡眠」がもたらす活動量の劇的な低下にあります。
①強制されたリズム逆転と睡眠の質の低下
夜勤労働者は、体内時計の逆転と睡眠の質の低下によって、日常的な身体活動量が必然的に大幅に減少してしまいます。
この活動量の減少が、消費カロリーを確実に押し下げ、体重増加の土台を作ってしまうのです。
本来、人間は日中に活動し、夜間に休息するようにプログラムされています。
夜勤明けに帰宅し、日中の明るい時間帯に睡眠を取らざるを得ない状況は、この自然なリズムに完全に逆行しています。
その結果、深い睡眠(徐波睡眠)が得られにくくなり、睡眠の質が低下するだけでなく、十分な睡眠時間を確保しても疲労感が残りやすいという特徴があります。
②NEATの減少:気づかない消費カロリー低下の主犯
この持続的な疲労感と倦怠感は、活動意欲を著しく減退させます。
仕事が終わった後の自由時間や、勤務前の時間でさえも、「動きたい」という気持ちが湧かず、休息や安静を選択せざるを得なくなります。
運動や趣味の活動、家事、外出といった日常的な非運動性身体活動(NEAT:Non-Exercise Activity Thermogenesis)が大幅にカットされるのです。
NEATは、座っている、立っている、歩く、階段を上るといった、特別な運動ではない日常動作によるカロリー消費を指し、1日の総消費カロリーの実に大きな割合を占めています。
このNEATの減少こそが、「特に運動量を減らしていないのに太る」と感じる夜勤勤務者の大きな謎を解く鍵なのです。
例えば、通勤時に歩いていた時間が睡眠に充てられたり、休日に外出していた時間を家で過ごすことが増えたりする積み重ねが、気づかないうちに膨大なカロリー消費の機会を失わせています。
③筋肉量減少による代謝低下の悪循環
さらに、活動量が減ると筋肉が使われなくなり、筋肉量の維持や増加が難しくなります。
筋肉は代謝が活発な組織であり、安静時でも多くのカロリーを消費します(基礎代謝の約20%を占めると言われています)。
活動量低下に伴う筋肉量の減少(サルコペニアのリスク)は、基礎代謝そのものを低下させる負のスパイラルを引き起こしかねません。
つまり、日中の睡眠は、活動量の直接的な減少と、それに伴う筋肉量減少による代謝低下という二重の側面から、消費カロリーを減少させ、「夜勤 太る」という現象に強く寄与しているのです。
3. 基礎代謝の低下が起き、消費カロリーが減る


夜勤勤務が体重増加を招く根本的なメカニズムの核心は、体内時計(概日リズム)の大規模な乱れが引き起こす「基礎代謝の低下」 にあります。
①体内時計がコントロールする代謝のエンジン
基礎代謝(BMR)とは、生命を維持するために必要な最小限のエネルギー消費量、つまり何もせじに寝ているだけで消費されるカロリーのことです。
この基礎代謝は、1日の総消費カロリーの60~70%を占める最も大きな要素です。
そして、この基礎代謝のペースを実質的にコントロールしているのが、視交叉上核を司令塔とする体内時計なのです。
夜間勤務と日中の睡眠という生活は、この精密な体内時計を強制的に逆転させ、混乱させてしまいます。
②ホルモンの乱れと生理機能の非効率化
体内時計の乱れは、体温調節、ホルモン分泌(コルチゾール、メラトニン、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、食欲調節ホルモンなど)、自律神経活動など、代謝に関わるほぼ全ての生理機能のタイミングと効率を狂わせます。
例えば、通常夜間にピークを迎える成長ホルモン(脂肪分解や筋肉修復に関与)の分泌パターンが乱れ、十分に分泌されなくなります。
また、代謝を活性化する甲状腺ホルモンの働きや、血糖調節に関わるインスリンの感受性(インスリン抵抗性)にも悪影響を与えることが知られています。
このようなホルモン環境の変化と生理機能の非効率化が、結果として安静時のエネルギー消費量、すなわち基礎代謝そのものを低下させてしまうのです。
③三重の消費カロリー減少という深刻な事態
さらに、先に述べた「日中の睡眠が招く活動量の低下」は、筋肉量の維持・増加を困難にします。
筋肉組織は代謝的に非常に活発で、脂肪組織に比べてはるかに多くのカロリーを消費します。
活動量が減り筋肉への刺激が不足すると、筋肉量が徐々に減少(サルコペニアのリスク)していきます。
筋肉量が減れば、その分だけ基礎代謝はさらに低下します。これはまさに負のスパイラルです。
「夜勤 太る」という現象は、摂取カロリーが増えた(過食)だけでなく、消費カロリーの大本である基礎代謝が下がり、さらに活動による消費(NEAT)も減るという、三重の消費カロリー減少が重なって起こる深刻な代謝機能の低下問題なのです。
夜勤による体重増加がなかなか解消しない背景には、この目に見えない基礎代謝の低下が潜んでいます。
おわりに
夜勤勤務は、確かに体重管理において大きなハンディキャップとなります。
しかし、そのメカニズムを理解し、「疲労と開放感による過食」「日中の睡眠が招く活動量の低下」「体内時計の乱れによる基礎代謝の低下」 という三大原因それぞれに対して、具体的な対策を講じることで、そのハンディキャップを乗り越えることは十分に可能です。完璧を目指す必要はありません。
できることから一つずつ、例えば「夜勤前に必ずタンパク質補給をする」「遮光カーテンを買う」「1日5分だけ筋トレを始める」といった小さな一歩が、長い目で見れば「夜勤 太る」という悩みからの脱却につながります。
自分の身体の声に耳を傾け、無理のない範囲で継続することが何よりも大切です。
あなたの健康を守るための努力は、決して無駄にはなりません。








