ちょっとした物音にビクッとしてしまったり、明日の仕事のことが頭から離れなかったり……そんな経験はありませんか?
もしあなたが、こうした「常に神経が張り詰めている感覚」に悩まされているなら、それはあなたの性格のせいではありません。それはハイパービジランスと呼ばれる状態かもしれません。
特に、不規則な生活リズムを強いられる夜勤勤務者にとって、この過覚醒は非常に起きやすい生理的な反応なのです。
本記事では、夜勤勤務の現場で戦うあなたが、少しでも心の平穏を取り戻し、安らかな休息を得られるための専門的なメンタルケアとセルフ対処法を、分かりやすく解説します。
決して一人で抱え込まず、一緒に心のスイッチをオフにする方法を探していきましょう。
1. 交感神経を落ち着かせる簡単な方法


夜勤を終えて帰宅した後、すぐにリラックスモードに入れないのは、自律神経のバランスが乱れていることが主な原因です。
私たちの体は本来、太陽が昇ると活動し、沈むと休むようにできています。
しかし、夜勤はそのリズムに逆らう行為です。そのため、体は無理やりエンジンを回し続けようとして、アクセル役である「交感神経」が優位になりすぎてしまうのです。
まずは、この高ぶりすぎた神経を物理的に鎮めるアプローチから始めましょう。
①意図的な「呼吸」で脳に休息のサインを送る
交感神経が優位になっている時、私たちの呼吸は浅く、速くなりがちです。
これは「戦うか逃げるか」という緊急事態に備える体の反応ですが、逆に言えば、呼吸をコントロールすることで脳に「もう安全だよ」という信号を送り返すことができるのです。
特に効果的なのが、吐く息を長くする呼吸法です。
息を吸う時は交感神経が、吐く時はリラックスを司る副交感神経が働きます。
ここでおすすめしたいのが、米軍などでも採用されている「タクティカル・ブリージング」の応用です。
- 4秒かけて鼻から息を吸う:お腹を膨らませるように深く吸い込み、エネルギーを取り込むイメージを持ちます。
- 4秒間息を止める:体内の酸素循環を意識し、一度動きを静止させます。
- 4秒かけて口から細く長く息を吐く:体の中の緊張や不安を、すべて吐息と一緒に外へ出し切るイメージです。
- 4秒間息を止める:何も考えず、空っぽの状態を保ちます。
これを数回繰り返してください。
この呼吸法は、強制的に心拍数を下げ、過敏になった神経を物理的に落ち着かせる効果があります。
ベッドに入っても目が冴えてしまう時は、このリズムを刻むことだけに意識を集中させてみてください。
②物理的な「重さ」と「温かさ」を利用する
過覚醒の状態にある時、体は無意識のうちに緊張し、筋肉が硬直しています。
この身体的な緊張が脳へとフィードバックされ、「まだ緊張状態を解いてはいけない」という誤った指令を出し続けてしまいます。
この悪循環を断つには、外側からの物理的な刺激が有効です。
具体的には、「加重毛布(ウェイトブランケット)」の使用や、入浴による温熱効果を取り入れることです。
適度な重みのある布団は、抱擁されている時のような安心感を与え、セロトニンやメラトニンの分泌を促すと言われています。
また、夜勤明けの入浴は、熱すぎるお湯だと交感神経を刺激してしまうため注意が必要です。
38度〜40度のぬるめのお湯に15分ほど浸かることで、深部体温が一時的に上がり、お風呂上がりで体温が下がっていくタイミングで自然な眠気が誘発されます。
このように、精神論ではなく「物理的なアプローチ」で体を誘導することが、夜勤による過覚醒には非常に効果的です。
③視覚情報の遮断とブルーライトコントロール
夜勤明けの朝、太陽の光を浴びてしまうことは、体内時計を「覚醒」の方向へ強力にリセットしてしまいます。
太陽光には、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制する強い力があるからです。
帰宅時はサングラスをかけ、寝室は遮光カーテンで真っ暗にすることが鉄則ですが、それ以上に意識すべきは「スマホの光」です。
寝る直前までスマホを見ていると、ブルーライトが脳を刺激し続けるだけでなく、SNSやニュースなどの膨大な情報量が脳の処理能力を圧迫します。
過覚醒状態の脳は、ただでさえ情報過多でパンク寸前です。そこに新たな情報を注ぎ込むのは、火に油を注ぐようなものです。
「帰宅して玄関を開けたら、スマホは機内モードにする」といった厳格なルールを設けてみてください。
外部との接続を一時的に断つことは、心理的な「バリア」を作ることにもなり、自分だけの安全な空間を確保するために非常に重要な儀式となります。
2. 「常に警戒してしまう思考」への向き合い方


夜勤勤務者の中には、仕事中だけでなく、休日やリラックスすべき時間であっても、「何か見落としはないか?」「緊急の連絡が来るのではないか?」と、常に周囲を警戒してしまう状態に陥る人がいます。
これは専門用語で「ハイパービジランス」と呼ばれる状態であり、決してあなたの神経が細かいから起きているわけではありません。
脳が生存本能として、過剰に防衛機能を働かせているサインなのです。
①ハイパービジランス(過覚醒)の正体を知る
まず最も大切なことは、今のその苦しい感覚に「ハイパービジランス」という名前を与え、客観視することです。
「自分が弱いから不安になるんだ」と自分を責めるのはやめましょう。
夜勤という環境は、人間にとって非日常的なストレス環境です。
特にミスが許されない現場で働く夜勤者にとって、脳は常に「危険を察知せよ」というモードに入っています。
このモードが解除されないまま日常に戻ってしまうのがハイパービジランスです。
- 音に過敏に反応する:ドアの音や着信音に対して、心臓が跳ね上がるような反応をするのは、脳が「敵襲」に備えている状態です。
- 人の顔色を読みすぎる:他人の些細な言動を深読みしてしまうのは、周囲の脅威を未然に防ごうとする過剰な防衛反応です。
- リラックスを罪悪視する:休んでいる間も「何かすべきことがあるはずだ」と感じるのは、警戒態勢が解けていない証拠です。
これらは全て、あなたの脳があなたを守ろうとして頑張りすぎている証拠です。
「今、自分はハイパービジランスの状態にあるんだな」と、第三者の視点で自分を実況中継するように認識してください。
これだけで、不安の渦中から一歩外に出ることができます。
②「グラウンディング」で今ここに戻る
過度な警戒心は、意識が常に「未来(これから起こるかもしれない悪いこと)」や「外部(周囲の環境)」に向いている時に起こります。
これを強制的に「今、ここ」に戻すテクニックが「グラウンディング(地に足をつける)」です。
思考が暴走しそうになった時、五感を使って現在の安全を確認します。例えば、「5-4-3-2-1法」というワークがあります。
- 視覚(5つ):今見えるものを5つ挙げます(時計、カーテン、自分の手、マグカップ、天井のシミなど)。
- 触覚(4つ):今肌で感じているものを4つ挙げます(服の感触、足の裏が床につく感覚、椅子の背もたれ、空気の温度など)。
- 聴覚(3つ):聞こえる音を3つ探します(エアコンの音、遠くの車の音、自分の呼吸音など)。
- 嗅覚(2つ):周囲の匂いを2つ感じ取ります。
- 味覚(1つ):口の中の感覚を1つ味わいます。
このワークを行うことで、脳の処理リソースを「警戒」から「感覚の認識」へと強制的にシフトさせることができます。
「今、目の前にはライオンはいない」という事実を脳に体感させることが、過覚醒を鎮める鍵となります。
③「心配り」の時間を区切る(心配タイムの設定)
それでも「仕事でミスをしたかもしれない」という不安が頭から離れない場合、無理に忘れようとすると、かえってその思考は強くなります。
そこでおすすめなのが、あえて「心配する時間」を設けることです。
例えば、「夜勤明けの帰宅中の電車の中だけは、今日の反省や不安を思いっきり考えてもいい時間」と決めます。
そして、最寄りの駅に着いたら、あるいは玄関のドアを開けたら、「はい、今日の心配タイムは終了。
これ以降に不安が浮かんだら、また次の心配タイムに回す」と自分に言い聞かせます。
- 場所を決める:特定の椅子や、移動中など、心配する場所を限定します。
- 時間を決める:15分だけ、とタイマーをセットして集中して悩みます。
- 書き出す:頭の中の不安を紙に書き出し、物理的に外へ追い出します。
不安を完全に消すことは不可能ですが、「今は考えない、後で考える」という棚上げは、訓練次第でできるようになります。
思考に枠組みを作ることで、ダラダラと続く警戒モードに区切りをつけるのです。
3. 不安を増幅させないために意識したい考え方


過覚醒の状態にあると、私たちは物事をネガティブな方向にばかり考えがちです。
これは「認知の歪み」とも呼ばれ、疲労した脳が引き起こす一種のバグのようなものです。
最後に、不安をこれ以上大きく育てないために、心の底に持っておきたいマインドセット(考え方の土台)についてお伝えします。
①「眠れなくても、横になっているだけで8割回復する」
過覚醒で最もつらいのは、「眠らなきゃいけないのに眠れない」という焦りです。
「今寝ないと、次のシフトで倒れてしまう」という予期不安が、さらなる覚醒を呼びます。
ここで強力な武器になるのが、「完全に眠れなくても、目を閉じて横になっているだけで、体は十分休息できている」という事実を知っておくことです。
実際、目を閉じて外部情報を遮断し、体を水平にしているだけで、内臓や筋肉は休息モードに入っています。脳も覚醒時よりは休まっています。
- 睡眠への執着を捨てる:眠ろうと努力するのをやめ、「横になる練習」だと思い込みます。
- 目を閉じる価値を知る:視覚情報が消えるだけで、脳の負担は大幅に軽減されます。
- 「眠れたらラッキー」の精神:目標を「熟睡」ではなく「休憩」に設定します。
「眠らなくてもいい、ただ体を横たえていよう」と開き直ることで、逆説的ですが、フッと意識が落ちる瞬間が訪れやすくなります。
②自分自身に「優しい言葉」をかける(セルフ・コンパッション)
夜勤や不規則な生活で自律神経が乱れ、情緒不安定になるのは、あなたが人間である以上、当たり前の反応です。
しかし、真面目な人ほど「みんなやっているのに、なぜ自分だけこんなに辛いのか」と自分を批判してしまいます。
自己批判は、脳にとって「攻撃されている」という認識になり、さらなる警戒モード(ハイパービジランス)を引き起こします。
不安を増幅させないためには、親友に接するように自分自身に接する「セルフ・コンパッション」の考え方が不可欠です。
- 苦しみを認める:今の辛さを「これはきついよね」と客観的に認めます。
- 共通の人間性を意識する:自分だけが特別弱いのではなく、夜勤をする誰もが抱える苦労だと認識します。
- 自分に語りかける:「夜勤、本当にお疲れ様。よく頑張っているよ」と心の中で声をかけます。
自分自身を敵ではなく、味方につけることで、心の安全基地が確保され、過度な緊張が解けやすくなります。
③「白黒思考」を手放し、グレーゾーンを許容する
過覚醒になりやすい人は、物事を「成功か失敗か」で判断する完全主義的な傾向(白黒思考)が強い場合があります。
「少しのミスも許されない」「完璧に眠って回復しなければならない」という極端な思考は、常に自分を追い詰めます。
しかし、現実はもっと曖昧なものです。
- 及第点を下げる:「今日はあまり眠れなかったけど、まあなんとかなるだろう」と合格ラインを下げます。
- 「まあ、いいか」を口癖にする:完璧でない自分や状況を許容するための魔法の言葉です。
- プロセスを評価する:結果がどうあれ、その場に立って仕事を全うした自分を認めます。
「まあ、いいか」という言葉を口に出すことで、張り詰めた糸が少し緩みます。
夜勤というハードな環境で生き抜くためには、この「適当さ(適切に当たる能力)」こそが、最大の防具になるのです。
おわりに
この記事を読み終えた今、まずは一度、深く息を吐き出してみてください。
もし、「今の自分はまさにハイパービジランスの状態だ」と感じたなら、今夜(あるいは次の仮眠時)に、記事内で紹介した「4-4-4-4の呼吸法」を一度だけ試してみませんか?
完璧にやろうとする必要はありません。「ちょっと試してみるか」くらいの軽い気持ちで大丈夫です。
あなたの心と体が、少しでも安らぎを取り戻せることを願っています。






