激務の中でふと鏡を見たとき、あるいは制服のウエストがきつくなったとき、「なぜこんなに働いているのに太るんだろう?」と絶望的な気持ちになったことはありませんか?
「食べてすぐ寝るからだ」「意志が弱いからだ」と自分を責めないでください。夜勤で太るのは、あなたの努力不足ではなく、人体の構造上「極めて正常な反応」なのです。
本記事では、なぜ夜勤が太りやすいのか、そのメカニズムを徹底的に解明します。
敵を知らなければ、戦には勝てません。「夜勤ダイエット」の第一歩は、この体の仕組み(原因)を正しく理解することから始まります。
1. 体内時計の乱れが代謝を低下させる


夜勤をしていると「なんとなく代謝が落ちた気がする」と感じることがあるでしょう。
それは気のせいではありません。私たちの体にはサーカディアンリズム(概日リズム)という体内時計が備わっており、これが夜勤によって強制的に狂わされることで、物理的にカロリーを消費しにくい体になってしまうのです。
①深部体温の低下が招く「省エネモード」
私たちの体は、日中は活動するために体温を上げ、夜間は休息するために体温を下げるようにプログラムされています。
具体的には、夕方ごろに体温が最も高くなり、明け方の4時から6時ごろに最も低くなります。
基礎代謝と体温は密接に関係しており、体温が1度下がると基礎代謝は約13%低下すると言われています。
夜勤中、私たちは起きているつもりでも、体は「今は寝る時間だ」と判断して深部体温を下げようとします。
つまり、昼間の勤務と同じ動きをしていても、夜間は体が「省エネモード」に入っているため、エネルギー消費効率が圧倒的に悪くなるのです。
夜勤中に寒気を感じやすいのも、この体温低下が関係しています。このように、夜勤は「燃費が良すぎる(カロリーを消費しない)体」で運動しているような状態なのです。
②自律神経の綱引きによる「内臓の疲弊」
代謝をつかさどる自律神経は、活動モードの「交感神経」と、休息・消化モードの「副交感神経」から成り立っています。
通常、食事をすると副交感神経が優位になり、胃腸が活発に動いて消化吸収や排泄を促します。
しかし、夜勤中はこのバランスが崩壊します。仕事をしているため「交感神経」を無理やり優位に立たせつつ、夜食をとることで「副交感神経」も刺激するという、アクセルとブレーキを同時に踏むような状態に陥ります。
この自律神経の混乱は、内臓機能、特に腸の働きを低下させます。腸の動きが鈍ると、栄養の吸収が乱れるだけでなく、便秘がちになり、老廃物が体内に溜まりやすくなります。結果として、代謝のサイクルが滞り、太りやすい体質へと変化してしまうのです。
③「社会的時差ボケ」が引き起こす糖代謝異常
夜勤明けや休日に、無理やり昼型の生活に戻そうとすることで生じる「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」も深刻な問題です。
体内時計中枢がある脳と、末梢時計がある臓器(肝臓や膵臓など)との間で時間のズレが生じます。
このズレは、インスリンの感受性を低下させることが分かっています。
インスリンは血液中の糖分をエネルギーに変える重要なホルモンですが、この効きが悪くなると、摂取した糖質がエネルギーとして使われず、そのまま脂肪として蓄積されやすくなります。
つまり、夜勤生活そのものが、糖尿病予備軍のような「太りやすく痩せにくい代謝システム」を作り上げていると言っても過言ではありません。
2. BMAL1(ビーマルワン)の活性化で脂肪が蓄積しやすい


「夜中に食べると太る」というのは昔からの言い伝えですが、これには「BMAL1(ビーマルワン)」というタンパク質が科学的根拠を与えています。
この物質は、別名「肥満遺伝子」とも呼ばれ、脂肪の合成を促進し、脂肪細胞への蓄積を命令する司令塔の役割を果たしています。
①脂肪合成の司令塔「BMAL1」のメカニズム
BMAL1は、体内時計を調整するタンパク質の一種ですが、同時に脂肪酸やコレステロールの合成を促す酵素を増やす働きを持っています。
食事から摂ったエネルギーを「今のうちに脂肪として溜め込んでおけ!」と体に指令を出すのが、このBMAL1の正体です。
太古の昔、人間にとって夜は飢餓の危険がある時間帯でした。そのため、夜間に摂取した栄養を効率よく体内に温存しようとする生存本能が、この遺伝子には組み込まれています。
私たちが夜勤で働いている現代でも、この遺伝子のスイッチは古代のままです。
したがって、夜勤中に食べたおにぎりやパンは、昼間に食べるそれよりも、はるかに高い確率で体脂肪へと変換されてしまうのです。
②魔の時間帯:午後10時から午前2時
BMAL1の分泌量は一定ではなく、時間帯によって劇的に変動します。
最も分泌量が増えるのが夜の10時から深夜2時(〜明け方4時頃)にかけてです。
この時間帯は、昼間の少ない時間帯と比較すると、BMAL1の量はなんと約50倍にも達すると言われています。
夜勤の休憩時間がちょうどこの時間帯に重なる方も多いのではないでしょうか。
この「魔の時間帯」に高カロリーな食事(カップ麺や揚げ物弁当など)をとることは、火に油を注ぐようなものです。
体は全力でそのカロリーを脂肪に変えようと待ち構えています。
夜勤太りの最大の物理的要因は、このBMAL1が活性化しているピーク時に、通常の食事を摂取してしまう点にあります。
③逆転の発想:BMAL1が少ない時間を味方につける
逆に、BMAL1が最も少なくなる時間帯も存在します。それは午後2時(14時)から午後3時(15時)頃です。
「3時のおやつ」というのは理にかなっており、この時間帯に食べたものは脂肪になりにくいことが分かっています。
夜勤入り前の食事や、夜勤明けで起きた後の食事のタイミングをコントロールする際、この「BMAL1の少ない時間」を意識することが重要です。
夜勤ダイエットにおいては、「何を食べるか」と同じくらい、あるいはそれ以上に「いつ食べるか」という「時間栄養学」の視点が不可欠です。
このリズムを無視してカロリー計算だけを行っても、思うような成果が出にくいのはそのためです。
3. ストレスと睡眠不足が食欲を増進させる


「夜勤明けに無性にジャンクフードが食べたくなる」「お腹はいっぱいのはずなのに、口寂しくて食べてしまう」。
これはあなたの意志が弱いからではありません。睡眠不足とストレスによって、脳内のホルモンバランスが崩壊し、脳があなたに「食べろ」と強烈な命令を出しているからです。
①食欲のブレーキとアクセル:「レプチン」と「グレリン」
人間の食欲は、主に2つのホルモンによってコントロールされています。食欲を抑えるブレーキ役の「レプチン」と、食欲を増進させるアクセル役の「グレリン」です。
健康な状態であればこれらはバランスを保っていますが、睡眠時間が短くなったり質が低下したりすると、このバランスが一気に崩れます。
海外の研究によると、十分な睡眠がとれていない状態では、食欲を抑えるレプチンが減少し、逆に食欲を増進させるグレリンが増加することが分かっています。
具体的には、グレリンが15〜30%近く増加するというデータもあります。
つまり、夜勤や睡眠不足の状態にあるとき、あなたの体は常に「強力な空腹信号」が出続けている状態なのです。
これに意志の力だけで抗うのは至難の業です。
②コルチゾール増加による「偽の食欲」
夜勤という環境は、生体リズムに逆らう行為であり、体にとっては強力なストレス源となります。
このストレスに対抗するために、体は「コルチゾール」というストレスホルモンを分泌します。
コルチゾールは血糖値を上昇させる働きがありますが、同時に「すぐにエネルギーになるものをよこせ!」と脳に要求します。
これが、夜勤中や明け方に猛烈に甘いものや炭水化物(ラーメン、菓子パン、スナック菓子)が欲しくなる原因です。
これは体が必要としている栄養素を求めている(本当の食欲)のではなく、ストレスによって脳がドーパミンなどの快楽物質を求めている「エモーショナル・イーティング(偽の食欲)」である可能性が高いです。
このメカニズムを知らないと、ストレス解消のために食べ続け、その罪悪感でさらにストレスを感じるという悪循環に陥ります。
③味覚の鈍化と「濃い味」への依存
さらに恐ろしいのが、睡眠不足による味覚の変化です。
睡眠不足の状態では、脳の前頭葉(理性を司る部分)の機能が低下し、報酬系(快楽を求める部分)が活発になります。
これにより、普段なら「味が濃すぎる」「脂っこい」と感じるような食事でも、おいしく感じたり、物足りなく感じたりするようになります。
コンビニのホットスナックや味の濃いカップ麺が、夜勤中や明け方に特別においしく感じるのはこのためです。
塩分や糖分の多い食事はむくみを引き起こし、さらに体重増加を加速させます。
このように、ホルモンと脳の働きの変化が、あなたを太りやすい食事へと無意識に誘導しているのです。
4. 運動不足になりやすい環境


夜勤従事者が太りやすい最後の要因は、シンプルですが深刻な「活動量の低下」です。
ここで言う活動量とは、ジムでの運動だけでなく、日常生活での何気ない動きも含みます。夜勤特有の環境や疲労が、私たちを「動かない生活」へと縛り付けています。
①慢性的な疲労によるNEAT(ニート)の減少
ダイエットにおいて重要な概念にNEAT(非運動性熱産生)があります。
これは、家事、通勤、姿勢を保つ、貧乏ゆすりなど、スポーツ以外の日常生活活動で消費されるエネルギーのことです。
実は、1日の消費カロリーのうち、意図的な運動よりもこのNEATが占める割合の方が大きいことが多いのです。
しかし、夜勤明けや夜勤入りの日は、慢性的な睡眠負債と疲労により、「できるだけ動きたくない」という防衛本能が働きます。
休日は一日中ベッドやソファで過ごし、トイレ以外動かない……ということも珍しくありません。
ジムに行く元気がないだけでなく、この「無意識の活動量(NEAT)」が極端に低下することで、トータルの消費カロリーが激減します。
「食べていないのに太る」という人は、このNEATの低下が大きな原因であることが多いのです。
②ライフスタイルの不一致による運動機会の喪失
一般的なスポーツジムやフィットネスクラス、あるいは友人と行うスポーツ活動は、多くの場合、平日夜や週末の日中に設定されています。
不規則なシフト勤務をしていると、これらの決まった時間の活動に参加することが物理的に困難です。
「ジムに入会したけれど、夜勤明けは行く気力がないし、夜勤入り前は時間を気にして行けない」というパターンは典型的です。
また、夜間に営業している24時間ジムであっても、深夜は防犯上の不安があったり、スタッフがいなくて使い方が分からなかったりと、初心者にはハードルが高い場合があります。
誰かと約束して運動するという強制力が働かないため、一人でモチベーションを維持し続けなければならず、継続的な運動習慣が途切れやすくなります。
③「夜勤明けのご褒美」という心理的罠
環境要因として無視できないのが、心理的な要因です。
夜勤という過酷な労働を乗り越えた後には、「これだけ頑張ったのだから」という補償行為(リワード)を求めたくなります。
この際、健康的な運動やリラクゼーションをご褒美にできれば良いのですが、手軽な「食」や「飲酒」がご褒美になりがちです。
さらに、帰宅してからの「寝るだけ」の環境が、食べてすぐ寝るという最悪のパターンを完成させます。
運動不足の状態で、高カロリーなご褒美を摂取し、そのまま睡眠に入る。
この一連の行動パターンが環境的・心理的にセットされていることが、夜勤太りから抜け出せない大きな要因となっています。
おわりに
夜勤で太りやすいのは、体内時計の乱れや深部体温の低下、BMAL1の時間依存的な働き、ホルモンバランスの崩れ、活動量の低下が複合的に作用するためです。
本記事で紹介した時間栄養学や夜勤入り前の食事タイミング調整、魔の時間帯の回避、睡眠の質改善、NEATの確保といった具体策を無理なく取り入れ、少しずつ習慣化することが夜勤ダイエット成功の鍵です。









