夜勤明けの深い疲労感。身体は休めているはずなのに、頭がぼーっとしたり、集中力が続かなかったり、些細なことでイライラしたり。
この疲れ、もしかしたら「脳疲労」が原因かもしれません。
特に、夜勤のような時間帯の制約や不規則な生活、そして複数のタスクを同時にこなす必要のある環境では、この脳疲労が蓄積されやすいものです。
では、一体なぜマルチタスクは私たちの脳を疲れさせるのでしょうか?
本記事では、そのメカニズムを脳科学の視点から紐解いていきます。
脳の働きを理解することで、なぜ疲れているのかが分かり、疲労を軽減するためのヒントが見つかるはずです。
1. 脳の「ワーキングメモリ」と「マルチタスク脳疲労」の関係


夜勤業務では、患者さんの状態観察をしながらカルテを記入したり、急な対応に追われながら他の業務を再開したりと、複数のタスクを同時に、あるいは短い間隔で切り替えながらこなすことが日常茶飯事ですよね。
このマルチタスクが脳疲労を引き起こす鍵となるのが、「ワーキングメモリ」と呼ばれる脳の機能です。
ワーキングメモリとは、一時的に情報を記憶し、それを処理する脳の作業台のようなものです。
まるでパソコンのメモリのように、目の前の課題を解決するために必要な情報を一時的に保持しておく役割を担っています。
①ワーキングメモリの限界と脳疲労
このワーキングメモリには、処理できる情報量に限界があります。
夜勤で複数のタスクが同時に発生すると、脳はそれらすべての情報をワーキングメモリ上で処理しようとします。
しかし、タスクAを処理している間にタスクBの情報が入ってくると、脳はタスクAの情報を一旦保持しておき、タスクBの処理へと切り替えます。
この切り替え作業そのものが、脳に大きな負荷をかけるのです。
特に夜勤のような不規則な時間帯では、体内時計が乱れ、脳の機能が低下しやすい状態にあります。
そのような状況でマルチタスクを強要されると、ワーキングメモリは常にフル稼働となり、許容量を大きく超えてしまいます。
その結果、脳の処理能力が低下し、記憶力の低下や思考力の鈍化といった「マルチタスク脳疲労」の症状が現れるのです。
②パソコンのメモリに例えると
この状態は、例えるなら、一台のパソコンで複数の重いソフトウェアを同時に起動させているようなものです。
最初はなんとか動いていても、次第に動作が遅くなり、最終的にはフリーズしてしまうこともあります。
私たちの脳も全く同じで、過剰な負荷がかかり続けると、処理能力が著しく低下し、疲れとして自覚されるようになるのです。
2. 「切り替えコスト」がマルチタスク脳疲労を加速させる


夜勤中に複数のタスクを切り替える際に生じる疲労のもう一つの大きな要因が、「切り替えコスト」です。
これは、タスクAからタスクBへと注意の焦点を移す際に、脳が消費するエネルギーと時間のことです。
私たちは意識的にタスクを切り替えているつもりでも、脳はその度に、タスクAの関連情報を一時的にシャットダウンし、タスクBの関連情報を呼び出すという複雑なプロセスを無意識下で行っています。
この一連の作業が切り替えコストとして、脳に負担をかけているのです。
①夜勤における切り替えコストの蓄積
夜勤では、複数の業務が不規則なタイミングで発生することが多いため、この切り替えコストが頻繁に、そして繰り返し発生します。
例えば、患者さんの様子を確認している最中に、ナースコールが鳴り、急いで対応し、その後再びカルテの記入に戻るという状況。
脳は、患者さんの情報からナースコールの情報へ、そしてまたカルテの情報へと、めまぐるしく注意を切り替える必要があります。
その度に、脳内の複数の領域が活発に働き、大量のエネルギーが消費されます。
特に夜勤のような時間帯では、睡眠不足によって脳のエネルギー源であるブドウ糖の消費効率が悪くなっているため、この負担はさらに増大します。
その結果、脳のエネルギーが枯渇し、疲労感が増すだけでなく、注意散漫になったり、些細なミスが増えたりするのです。
②慢性的な疲労へとつながるメカニズム
この「切り替えコスト」は、一度の切り替えでは微々たるものですが、夜勤のようにタスクの切り替えが頻繁に起こる状況では、そのコストが積み重なり、やがて慢性的な脳疲労へとつながっていきます。
夜勤業務に携わる人々が抱える疲労感の背景には、このような脳のメカニズムが隠されているのです。
私たちは、このメカニズムを理解することで、意図的にタスクを整理したり、シングルタスクを意識したりすることで、脳への負荷を軽減できる可能性を見出せるかもしれません。
おわりに
夜勤という過酷な環境の中で、私たちの脳は想像以上に多くの負荷を受けています。
マルチタスクによる脳疲労は、単なる「疲れ」ではなく、脳の処理能力そのものに影響を与える深刻な現象です。
しかし、そのメカニズムを知ることで、私たちは疲労の正体を見極め、少しずつ対策を講じることができます。
タスクの整理やシングルタスクの意識づけは、脳への負担を軽減する第一歩です。
「頑張りすぎないこと」も、立派なセルフケア。あなたの脳に、少しの余白を与えてあげましょう。





